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ザ・ノンフィクション~37歳、人生で一番熱い夏~

去年の夏、ひっそりと派遣のバイトを始めた。ある撮影依頼に対して、自分の手持ちのレンズでは対応しきれないことが事前にわかり、レンタルレンズでやりすごそうか考えたが、移動が多い現場で傷をつけない自信がなかったため、購入を決意した。けれど、30万円くらいかかるため、資金が足りず、やむを得ずバイトをすることになった。

 

 情けなさでいっぱいだった。

 

世の中全体の見解は知らないが、わたしの周りの起業家の概念として「バイトをしなければ食っていけない起業家は敗者」のような空気があったため、私自身もそう思い込んでおり、その思いが自己価値を下げ、毎日を陰鬱にさせた。

 

バイトはコンビニを選んだ。コンビニのバイトで派遣という形はとても珍しく、そして店舗で直接雇用されるよりはるかに時給が良かった。週3日、18時から深夜2時までの8時間という形にしてもらい、バイト直前まで個人事業の仕事ができるスペースを確保した。

 

派遣の担当営業さんがとてもいい方で「こんなことを言うのは大変失礼ですが…本当にコンビニでいいんですか?中澤さんのキャリアと人柄なら、もっといい仕事を紹介できますよ」そう提案してくれた。仮にも、前職は販売業で店長歴が10年もある。ロールプレイングコンテストにも出場し、好成績を収めている。ちゃんと明るく礼儀正しい。わたしが担当でも同じ提案をすると思う。

 

 

会社を辞めて独立したけど、うまく行かなくて、コンビニでバイトをする37歳の独身の女。そういう人物が世間からどんな目で見られるのか、多少なりとも理解しているつもりだった。「落ちぶれた」「敗者」「イタイ奴」そう見られてもしょうがないと思っていたし、自分でもそれを受け入れていた。しょうがない。現状はほんとうにそうだもの。そう思うのにこびりついたプライドが、いつも胸を苦しくさせた。積年のプライドなんて、現状においてはひとつも私を救わない。みじめにさせるだけだ。荒治療でもいいから、早くこの不要物を捨ててしまえたらと思った。楽になりたかった。

 

「一応個人事業をしていて、午前中と午後に仕事が多いから夜に働けるのがいいんです。それに販売業は商品を覚えるまでが大変なので、もう少し気楽に稼げたらいいなと思って。だからコンビニがちょうどいいんですよ」

 

 

そう言って笑ってみせた。落としたいプライドが落とせない。大して仕事なんて入っていないくせに、大見得を切って「お仕事ありますから、うまく行ってますから」アピールをした自分が恥ずかしかった。嘘です、本当はめちゃくちゃ暇で、全然上手くいっていないし、すごく方向性に悩んでいます。自分でもどうすればいいか分からなくて、毎日不安で眠れないんです。そう素直に言える人間だったら、もっと違う人生があったのかも知れないと思った。

 

でもそんなことを知らない担当営業さんは「ああ!じゃあ条件的にはちょうどいいですね!接客販売業だと、どうしても日中シフトですもんねぇ」とほっとした顔で納得してくれた。慣れた接客販売業なら、例え売る商品が違くても、1か月あればなんとなく流れが掴めるだろうし、3か月あれば努力次第だが商品を把握して、独自のセールストークを作ることは出来るだろうと考えていた。

 

 

社会人になってから15年間、ほとんど接客販売業をやってきたから、なんとなくコツは掴んでいる。どこにいっても、何を取り扱っても、一通り販売できる自負はある。でも販売業だけは、たとえバイトであったとしてもやりたくないと思った。

 

販売に戻ってしまったら、それこそ元に戻ってしまうんじゃないかと怖かった。きっとすごく頑張って商品を覚えて、いい販売を心掛けるように努力する自分が安易に想像できた。そうしたら個人事業に回すエネルギーが残っておらず、廃業をする自分がとてもリアルに想像出来たから嫌だった。

 

努力して努力して、独立した意味がなくなっちゃうのではないか?あんなに怖い思いをして、いっぱいチャレンジして、やっとの思いで会社を辞めて独立したのに、また販売員に戻ってしまったら「ああ、わたしにはやっぱりこの仕事しかできないのかな」と思うことが何より怖かった。

 

自分はどうせこの程度の人間なのだ。大きな夢を描いたものの、現実にすることが出来ず、挫折して、面白くない毎日を食べることや買い物をすることで発散し、死ぬまで一日一日を細々と消費していくしかなかった、毎日絶望しながら生きていたあの頃に戻るような気がして、販売だけは避けたかった。このプライドだけは、どうしても折る気になれなかった。アイデンティティに関わる。死んでしまうと思っていた。

 

ちょっと気楽に稼げたらいい。

そう思って接客販売よりも楽なコンビニを選んだ。

 

だがこれが、史上最大の大誤算であり

わたし史上、人生で一番あつい夏の始まりになろうとは

この時点では誰も想像していなかった。

 

つづく↓

megumintia.hatenablog.com